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札幌高等裁判所 昭和60年(ラ)10号 決定 1985年6月10日

抗告人 宮嶋文次郎

主文

1. 原決定を取り消す。

2. 本件免責を許可する。

理由

一、本件抗告の趣旨は、主文同旨の決定を求めるというのであり、本件抗告の理由は、別紙抗告の理由記載のとおりである。

二、そこで、判断するに、本件記録によれば、抗告人は、昭和五七年一月ころから昭和五八年一〇月ころまでの間に株式会社日産クレジットほか一三名から合計一四回にわたり(各債権者につき一回)借財をし、これらの債権者に対して合計二六一万円余の債務を負担して支払不能の状態に陥り、昭和五八年一一月二五日、札幌地方裁判所室蘭支部に自己破産の申立てをし、同年一二月一四日、同支部において破産宣告を受け、同時に破産財団をもって破産手続の費用を償うに足りないとして破産廃止の決定を受けたこと、抗告人は、前記の債権者の一部(いわゆるサラ金業者)から借財をするに当たり、すでに他からの借財又は保証債務の負担によりその返済が事実上不可能又は著しく困難となっていたにもかかわらず、右事実を秘匿し、又は、他の業者からの借入れの有無について質問されたときは、これがない旨を供述するなどして自己の弁済能力を偽ったことがあることが認められるので、抗告人には、一応破産法三六六条ノ九第二号に該当する事由があるものといわなければならない。

しかしながら、本件記録によれば、抗告人は、前記のとおり、自己の弁済能力を偽ったことがあるものの、その態様は消極的ないし受働的なものであるにとどまり、他人の氏名を冒用し、又は虚偽の証明書類を作出するなどの積極的作為的な欺罔行為は行っていないこと、本件負債の相当部分は、当時定職に就かずに徒食していた抗告人の長男和敏(昭和三三年七月一〇日生)から生活費を無心され、又は同人の乗用に供する自動車の購入等について代金ローンの連帯保証人となることを懇請された抗告人が、これを拒絶した場合、同人が家出し、悪行に走ることを恐れる余り、同人からいわれるままにサラ金業者から同人のために借財をしてやり、又は、連帯保証人となったことにより生じたもので、右借財等がきっかけとなり、その金利負担がかさんだことなどもあって、徐々に負債額が増加し、本件破産に至ったものであること、抗告人は、借り入れた金員を浪費、遊興、賭博等のために使用したことはないこと、抗告人は、昭和二年一一月五日生れで、これまで団体職員、会社員等として真面目に稼動してきたこと、抗告人は、現在、建築会社の現場労働者等として稼動しているが、冬期間はほとんど仕事がないため、収入もわずかであり、また、冬以外の時期においても十数万円程度の月収しか得ていない経済状態にあり、したがって、本件負債を完済することは抗告人の右経済力をもってしてはたとえ長期間にわたる分割払の方法によっても当面極めて困難であること、本件免責の申立てについて検察官及び免責の効力を受けるべき破産債権者から異議の申立てはなされていないこと、以上の事実が認められる。

右認定の事実によれば、抗告人の用いた詐術の程度は軽微なものというべきであって、右認定のような諸般の事情を考慮すれば、本件においては、抗告人に対し、その経済的更生を容易にするため、裁量により免責を許可するのが相当である。

三、よって、本件免責を許可しなかった原決定は相当でないからこれを取り消し、抗告人に対し免責を許可することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 奈良次郎 裁判官 松原直幹 柳田幸三)

<以下省略>

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